1.江戸時代の歩き方~当時の走り方を理解するために~
(2)江戸時代の歩き方(推定)の再現
(1)江戸時代の歩き方について
で推定した江戸時代の歩き方を実際に再現してみました。
江戸時代の歩き方(推定)
- ・前の足は膝を曲げて、爪先から真下におろしている。
かかとはほとんど地面につけない。 - ・大股ではなく小股で歩く
- ・手はほとんど振らない(身体をねじらない)
現代の歩き方と比較すると以下のようになります。
*印:文献で分からない部分は、実際に体を動かしてみて楽に歩ける方法を記載しています。)
動画 写真を クリック |
現代の歩き方 | 江戸時代の歩き方(推定) |
---|---|---|
足の着地 | 大股で、膝を伸ばして身体の前方でかかと着地 | 小股で、膝を曲げて身体の真下につま先着地 かかとはほとんど地面に着けない |
足の離地 | 爪先で後ろに蹴る | 力を抜いて引き上げる 地面から引き抜くイメージ* |
膝 | 膝は伸ばして まっすぐ正面にあげる |
膝は常に曲げている 膝を上げるとき 少し外向き(やや がに股) 下すとき膝は正面に戻る* |
手・腕 | 手を大きく振る 足と左右逆に振る |
手はほとんど振らない。
軽く内・外旋する程度 肩甲骨で上体のバランスをとる* |
背中 | 背中まっすぐ反って | 背中軽く曲げて |
胴体 | ひねる | ひねらない* |
速く歩く とき |
足に力を入れて地面を後ろに蹴る →自分の足の力で体が前に進む |
身体の真下~少し後ろに着地する 着地時に、普段 浮かせたかかとを少し地面に着ける →体が重力で自然に前に倒れることで進む* |
着物の合わせがはだけないよう、小股で歩くと、
足を前に伸ばせないので、どうしても足を身体の真下付近に着地することになります。
その時、踵からより爪先から足を地面に下ろした方が楽です。
そして、踵から着地するより爪先から着地したほうが、よりソフトに着地出来ます。
ゴム底の靴ではなく裸足か草鞋で歩いていた江戸時代、
爪先着地の方がより自然な方法だったのではないかと思われます。
また、後ろ側の足を地面から離すときも、
地面を後ろに蹴ると着物の裾が跳ねあがってしまいます。
また、雨後のぬかるみを歩くときに後ろに蹴ると、滑ります。
力を抜いて地面から抜くようにした方が歩きやすかったものと思われます。
膝を上げるとき、真正面よりも、10~30度外側に膝を向けた方が、
ももの内側に余計な力がかからず、楽に上げられます。
少しがに股、という感じでしょうか。
膝を下ろすときは、膝を正面に戻して下ろした方が楽です。
これは、人の関節の構造の関係ではないかと考えています。
浮世絵からでは分かりにくいのですが、より楽な方法で動くために、
そうしていたのではないかと推測しています。
(下の浮世絵では、正面を向いた人が、ややがに股で歩いています。)
手は、この歩き方ですとほとんど振る必要がありません。
肩甲骨が動けば身体のバランスが取れますので、
手は、それにつられて少し動く程度です。
その時、上げた足と同側の腕を外旋して手の平をやや上向きに、
後ろになった足と同側の腕を内旋して手のひらをやや下向きにした方が
肩甲骨が楽に動く感じです。
背中は、少し猫背の方が、足を身体の真下に下ろしやすく歩きやすいです。
背筋を伸ばすと足を真下に下ろしにくくなり、かえって歩きにくくなります。
また、道が整備されていない当時、兎の穴やぬかるみを踏まないよう、
足元を確認しながら歩く必要もあったものと思われます。
この歩き方ですと、胴体はほとんどひねられることはありません。
現代の歩き方の様に手足を振るたびに胴体がひねられることは無いので、
着物も乱れにくかったものと考えます。
股関節の動きに着目すると、以下のようになります。
- ・足が前に上がっているとき、股関節が外旋し、その同側の手~肩が外旋
- ・足が後ろに下がっているとき、股関節が内旋し、その同側の手~方が内旋
これは、半身(はんみ)の姿勢になり、
農作業で鍬で土を耕すときや、竹馬で歩くときの姿勢と同じになります。
また、早歩きをしたいとき、現代の歩き方では地面を強く蹴りますが、
この歩き方では足の着き方を変えるだけで力を入れずに早歩きが可能です。
江戸時代の歩き方に、力強さや、西洋的なのびやかな美しさはありません。
しかし、着物という独自の着衣を乱さず歩く、余計な力をかけずに歩くという意味では、
大変合理的な歩き方だったのではないかと、私は推測しています。