2.江戸時代の走り方について
(1)資料に見る江戸時代の走り方
資料に見る江戸時代の走り方 目次
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1.飛脚について
江戸時代、走る人というと「飛脚」が代表的かと思います。
しかし飛脚の走り方についての文献は、
私が調べた範囲では見つけられませんでした。
飛脚にお願いした荷物が届く日数(速さ)については、 いくつか記録があります。
リレーしながら目的地まで荷物を届けるのですが、
江戸から大阪までの約550kmを最短3日で走ったと言われています。[8][9]
当時は今のような明るい街灯が有りませんが、
仮に提灯のような明かりを持って24時間走ったとすれば時速約7kmペース、
昼間だけの1日16時間走ったとしたら時速約10kmペースで
走ったことになります。
2.忍者について
表には出ませんが、忍者も走ることを訓練していました。
甲賀忍者の末裔といわれる藤田西湖の著書「どろんろん」[10]によりますと、
以下の訓練を行っていたようです。
忍者の走る訓練
(1)整息術
幅三分(0.9cm)長さ五分(1.5cm)の綿くずを用意する。
その一端を舐め、前に垂れるように鼻先に付ける。
綿が落ちないように息をする。
最初は座って、上達したら走った後にやっても綿が落ちないように訓練する。
(2)基本訓練
・つま先歩き
・足の甲で歩く
・跳躍術( 前跳び〔3間=5.5m〕、後ろ跳び、高跳び〔9尺=2.7m〕、斜め跳び、横跳び )
麻の実を蒔いて、その上を毎日飛び越えることで跳躍力を訓練する。
習得に3年かかる。
(3)歩行訓練
・前方、後方、横歩き、斜め歩き、這行(しゃこう)速歩の6種を習得
力低(りきてい)にて歩く。
力低・・・紙を八折りにしたものを奥歯に挟み、自分の足元を見ながら小刻みに歩く。
顔を上に向けると疲労を早くするのでうつむき加減で。
・速度は時速4里(16km)一日に40里(160km)歩くのが忍者の定法。
⇒胸に笠を当てて落ちない程度の速度
一反(12.5m)の布を襟に付けて、走っている間その先端が地面に着かない速度
ただ、その歩行法の具体的な訓練法は記載がありませんでした。
3.武士・商人について
武士の中には、現代の私たちから見ると驚異的な走りを実現していた方がいたようです。[11]
・仙台藩の源兵衛という方は、江戸~仙台の約300km超を一日で走ったのだそうです。
時速に直すと約30㎞くらい、フルマラソンを1時間半かからない速さで走っていたことになります。
・北辰一刀流の開祖千葉周作の弟子に柏原という者がおり、高崎~大阪の600kmを3日で走ったそうです。
・宮本武蔵の「五輪書」にも、一日で四十里、五十里も走る早足の記述があります。
千里善走法
・江戸時代中頃の明和8年(1771年)岡伯敬が、
師匠である不及先生より学んだ「千里善走法」という速歩術を記録に残しています。[12]
それによると、歩き方には「真」「行」「草」の3種類があり、
また上り坂、下り坂それぞれの歩き方、長距離を歩くための七体の法があり、
これをマスターすると一日四十里(160km)は普通に歩けるようになるそうです。
この千里善走法につきましては、別ページで詳しく説明いたします。
神足歩行術
・江戸末期、「神足歩行術」という走り方を、京都・岡崎の矢野守助(千里)、
その弟子の竹川竹斉が伝授していたようです。
その神足歩行術について、竹川竹斉が学んだ概要が「射和文化史」という書籍に残っています。[13]
また、尾張藩の学者細野要斉らの書いた「名古屋叢書」によると、
近江の伊藤保住が、壬子(嘉永五年 1852年)に矢野守輔から神足歩行術を伝授され、
その際に守輔が短冊に練習内容を記した記録が残っているようです。[14]
この神足歩行術につきましては、別ページで詳しく説明いたします。
*守助の名前については、「助」と「輔」の二通りの記述があります。
ここでは、「守助」と記載し、名古屋叢書の記載についてのみ「守輔」と表記いたします。
参考文献
[8]市村咸人「江戸時代に於ける南信濃」p147-148
信濃郷土出版社 昭和9年刊(国会図書館デジタルコレクションより)
[9]安藤徳器「維新外史」p217-219 日本公論社 昭和15年刊(国会図書館デジタルコレクションより)
[10]藤田西湖「どろんろん―最後の忍者」p33-41(忍術修行の章より)国会図書館蔵
[11]甲野善紀「武術の新・人間学」p167-170 PHP文庫 2002年刊
[12]早川純三郎編「雑芸叢書第二」p415-420「不及先生 千里善走伝」より
図書刊行会 大正4年刊(国会図書館デジタルコレクションより)
[13]伊勢射和村「射和文化史」p51-54(竹斎と神足歩行術の章より)昭和30年刊 国会図書館蔵
[14]岩倉規夫「古書巡礼⑨ 神足歩行術」 雑誌「統計」1981年12月号p32-34 国会図書館蔵